発電所で作られる電気は27万~50万V、送電線で電圧は2万~15万V、電柱の上で6600V、そしておうちのコンセントは100Vか200V。どうせ家では100Vで使うんだから、わざわざ危険な超高圧にして送電するのってなんで?

100Vで発電所から持ってきてしまえば、送電線は上空数十メートルなんて高さに配置する必要もないし、電柱だっていらない。でもなぜわざわざ触れただけで即死するような危険な状態で電気を送るのだろうか?答えはカンタンで、

電圧を上げた方が送電効率が良いから。

とだけ言われてもピンとこない。なので、まず理想と現在の送電効率について紹介する。そのあと、少しだけ数式を使って高圧の方が効率が良いことを確認してみよう。

理想の送電線

効率を考える前に、理想の状態を考えてみる。送電において理想というのは、損失がゼロ。電線の抵抗はゼロ。効率が100%の状態ってことだ。100のエネルギーを送りだしたら、電気を受け取る側で100のエネルギーを利用することができる。この状態なら、送電する電圧は高くても低くても同じだ。むしろ、危なくないように低い電圧にした方がいいかもしれない。

現実の送電線

実際の電線には電気抵抗がある。その電気抵抗のせいで、送り出した電気の一部が送電の途中で熱や音となって消費されてしまう。実際の送電効率は95%程度と言われている。損失にして5%になる。

あれ?めっちゃ効率いいじゃん。たった5%のためにわざわざ超高圧で発電して鉄塔を何千本も立ててメンテのしにくい上空数十メートルに配線してんの?と思われたかもしれない。でも、発電所で作る電力は莫大だ。日本の原子力発電所では、数千GWという電力量になる。仮に1000GWの発電量を持つ発電所で作った電気を、送電効率95%で送り出したとする。5%の損失なので、送電により50GWが失われることになる。4人世帯の平均消費電力は400kWと言われているので、5%の損失は125000世帯分の電力に相当する。

これだけの電力を無駄にしているのか、と思われるかもしれないが、これでも送電効率は相当改善された。中部電力の公開している送電損失データによると、1951年で25%になっている。実に発電した電力の1/4が送電で失われていたことになる。

火力発電所の熱効率はおよそ40%と言われているから、0.4×0.75(送電効率)で0.3。炉にくべた石炭のうち、70%はお客様の元に届く前に消えてなくなってしまうのである。悲しきかな。

これが高度経済成長期で大幅に改善され、90年代からは安定して5%弱を推移している。20代のパパママ世代、いわゆる団塊世代が頑張ってくれたことがよく分かる。

中部電力公開データから作成

オームの法則と抵抗の消費電力

ちょっとだけ数式を使って確かめてみよう。

公式は二つだけ使う。一つ目は電気のスーパーウルトラ基本公式、オームの法則。電圧は抵抗値とそこに流れている電流で決まるよ~ってやつ。

V = RI

二つ目は、抵抗の消費電力の公式。特に名前は・・・聞いたことが無いが、公式というよりかは定義に近いのかもしれない。

W = VI

もしくはW = VI のVをRIとおいて、

W = RI^{2}

こいつは電圧と電流を掛けると電力(エネルギー)になるよって言ってる。

抵抗での電力損失

仮に1000Wの電力をお客様にお届けしたい場合を考えてみる。仮に、送電線には1Ωの抵抗があるとして、電圧を1000Vと100Vの場合で比較してみよう。

1000Vで送電した場合

1000Wで1000Vなので、W=VIの式から電流は1Aになる。送電線の抵抗は1Ωなので、オームの法則から電線にかかる電圧は1Vだ。すると、受電側(送電線の抵抗を通った後)では電圧は999V。電流はどこでも同じなので、受電側で使える電力は999W。よって、送電効率は99.9%になる。

100Vで送電した場合

上記と同様に考えると、1000W,100Vなので送電線に流れる電流は10Aだ。送電線の抵抗値は変わらないので、送電線にかかる電圧は10V。受信電力は900Wにしかならない。先ほどと比較して、送りだしている電力は変わらないのに、電圧を変えるだけで受電側で受け取れれる電力の量が変化した。

逆に言えば、送電線に流す電流を減らせば減らすだけ、送電線で消費する電力を減らすことができる。もしくは、抵抗を減らすことで送電抵抗にかかる電圧を減らし、消費電力を下げることもできる。

まとめると、

  • 電圧を上げれば送電線に流す電流が減り、送電線の電力損失を減らすことができる。
  • もしくは、送電線の抵抗を下げることで、 送電線の電力損失を減らすことができる。

送電線の抵抗

では、実際の送電線の抵抗値はどのくらいあるのだろう。構造から見てみよう。

送電線は主にアルミと鋼のワイヤーをねじって作られている。銅ではなくアルミを使う理由はいくつかある。銅はアルミよりも電気抵抗が低いが、銅は腐食(錆び)しすく、長期間裸で使用する送電線には向いていない。重さという観点でもアルミは比較的軽い金属であるため都合がいい。真ん中に鋼を使っているのは強度を確保する目的だと思われる。(アルミは鋼ほど頑丈ではない)

東京電力HPより借用

100万V設計の導体で単位長さ当たりの抵抗を考えてみよう。アルミ線54本、鋼線7本で構成されている。

素材の抵抗率は以下の通り。※鋼の詳しい組成は分からないが、主成分は鉄なので、ここでは鉄として扱う。

  • アルミ・・・ 2.82 × 10−8 [Ωm]
  • 鋼(鉄)・・・ 1.00 × 10−7 [Ωm]

抵抗率[Ωm]というのは、断面積1m2,長さ1mにしたときの抵抗だ。1mのアルミ線と鋼線一本当たりの抵抗に換算すると、

  • アルミ・・・ (2.82 × 10−8)/(1.9×10-3× 1.9×10-3 ×π× 54[本])=4.605×10-5[Ω]
  • 鋼(鉄)・・・ (1.00×10−7)/(1.9×10-3× 1.9×10-3 ×π×7[本] )=1.259×10-3 [Ω]

アルミ・鋼の合成抵抗で、それが8本まとまっているので

(アルミの抵抗×鉄の抵抗)/ (アルミの抵抗+鉄の抵抗)/8[本] = 1.112×10-5 [Ω]

100万V設計の電線1m当たりの抵抗が 1.112×10-5 [Ω] であることが分かった。

先ほどの99.9%の図に当てはめると、非常に抵抗値が低く見える。しかし、数十万キロワットの電力を送りだすこと、送電線の総延長は中部電力エリアだけで10000km以上にのぼることを考慮すると、95%の効率を維持していることがいかにすごい事であるか分かる。

まとめ

  • 高電圧で送電するのは、送電線になるべく電流を流したくないから。
  • 電圧を下げる(=電流を流す)だけ送電の損失は大きくなる。

参考サイト

Wikipedia「川内原発」:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B7%9D%E5%86%85%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB%E6%89%80

東北電力HP::https://www.tohoku-epco.co.jp/electr/genshi/onagawa/hd.html

電力計画com:http://standard-project.net/energy/statistics/energy-consumption-day.html

東京電力HP:http://www.tepco.co.jp/pg/electricity-supply/operation/line.html

中部電力HP:http://www.chuden.co.jp/kankyo/publication/pub_data/sonshitsuritsu.html