はじめに
温度が高くなるほど物質の電気抵抗が高くなる。電気屋さん(電気系技術者)はこれから作るものを、使う温度環境を考えて部品を選んだり構成を決める。
でも、「なんで温度が高くなると電気抵抗が上がるの?」という疑問を持ったことはないだろうか?
ぶっちゃけ、そんな理由を知らずとも設計はできる。けど、知っていた方がなんだかスッキリするし、電子部品の気持ちに一歩近づける。
電子部品の気持ちになる方法はまた別の記事で書きたいと思うが、まず先の疑問の結論を述べる。
温度が上昇すると格子振動が増大し、電子の移動度が低下する。結果として電気抵抗が上昇する。
なるほど!となった人はこれ以上読む必要がないかと思う。お疲れ様でした。
そうでない方々。せっかく疑問を持ったのに、こんな解説をされたらハァ?となってそれ以上勉強するのが嫌になる。
「バレーボール面白そうだなぁ。やってみようかな。」という未経験の人がいて、体験入部に来てくれたとする。でも、せっかく来てくれたのに練習でエースアタッカーが雷のような音速スパイクを次々と打ち込んだら間違いなく逃げていく。
なので、ここでは数式や小難しい言葉はなるべく使わず、”直感的に理解する”ことを目標に解説していきたいと思う。
まず、「”温度が高い”状態ってどんな状態?」「電気抵抗って?」という二つの疑問についてお話する。これらを理解すれば、あとは自然と疑問の答えが見えてくるはず。
温度が高い状態とは
温度って何だろう。冷たいものと温かいものを比較すると何が違うのだろうか。
温度についてお話するためには例が必要だ。ここでは我々にとって身近な物質のいくつかを例に挙げてみよう。
まずは”酸素”
まずは気体の場合
ここに、空気の約2割を占める物質、酸素くんがいる。実際は分子と言って、二個の酸素くんがくっついているのだが、ここでは簡単のため一つの粒で描く。
酸素くんは常日頃動き回っている。酸素くんに限らず、窒素くんも水素くんも二酸化炭素くんも、気体は常にそこらじゅうをものすごい速度で飛び回っている。
どれくらいの速さで飛び回っているかというと、常温(20℃)で470m/sという超音速だ。音速が約350m/sなのでマッハ1.3にもなる。そんな速度でぶつかられたら蜂の巣になっちまうよ!!と思う人もいるかもしれないが、酸素くんはとっても軽いから大丈夫。気体の場合、飛び回る速度は温度が高くなるほど速くなる。温度をどんどん上げて100℃では540m/sにもなる。
では、逆に温度が低くなるとどうなるだろう。
低温では、酸素くんの動きは鈍くなる。この世で最も低い温度は-273.15℃、すなわち絶対零度だ。絶対零度では、酸素くんはピタッと止まり、ほとんど動かなくなる。 この、温度による気体の速さを熱運動速度と呼ぶのだが、小難しい話なので詳しくはまた別の記事で詳しく説明することにする。
なんで-273.15℃なんて半端な温度で止まるの?と疑問に思う人がいるかもしれない。でもこれがこの世界の最低の温度なのだ。半端な数値になってしまうのは、「℃」という単位を人間の身近な物質である「水」が氷になる温度を0℃と定めてしまったたことによる。この、「これ以上下がることの無い最低の温度」を基準にした温度を絶対温度呼ぶ。ケルビンさんっていう昔のエライ科学者が決めたから単位はケルビン[K]を使う。
次に固体の場合
話を戻して、今度は気体ではなく固体について見てみよう。
固体・・・固体・・・何を例にしたらいいかな~。
今回は電気抵抗についても説明するのだから、電気を流しやすい物質がよさそうだ。
ここに銅くんを呼んできた。銅くんは常温(20℃)では安定した固体だ。 六角形に描いたのは作者の勝手なイメージによる。なんか金属って角ばってるイメージない・・・?
実際はたった一人の銅くんがポツンといることは稀で、人間が扱う状態では沢山の仲間と一緒にいて、結晶を構成している。 結晶というのは、別に難しくもなんともなくて、ただ規則正しく整列してますよーっていう状態を指しているだけだ。
一番身近な銅くんの結晶は10円玉だ。あの中には規則正しく整列した銅くんが沢山いる。ちなみにどれくらい沢山の銅くんがいるかというと、一個の10円玉には4.3×1022 個(43000000000000000000000個)という途方もない数の銅くんがいる。
なんか多すぎて実感が湧かないね。
ところで、酸素くんの場合は温度が上がるにつれて飛び回る速度が早くなった。銅くんのような固体の場合はどうなるのだろうか?
常温の場合。 銅くんたちは整列していて、隣の銅くんと手を繋いでいる。なのでそう簡単に飛んでいったりはしない。でも酸素くん同様に運動はする。固体の場合、自由に飛び回れない変わりにその場で振動するのだ。
銅くんたちは振動している。ブルブル震えている。会いたくて会いたくてたまらないらしい。
具体的にどれだけ振動するかを説明するのは少し難しい。詳しく知りたい人は「格子振動」で調べてもらうと良いかと思う。ひとまずここで重要なことは、温度が上がるほど格子振動は大きくなるということだ。
アツアツのヤカンを触って「あっづ!!!」となるのは、ヤカン表面の金属原子たちの振動が、アナタの指先を超高速でどついているからである。皮膚表面の温度は30℃前後だが、ヤカンは(中の水が沸騰している状態と考えると)100℃くらいになる。 100℃ の格子振動に揺さぶられた皮膚表面の細胞は、たんぱく質の構造を維持できなくなり損傷して火傷になる。
まとめると、
温度が高い状態とは、原子が激しく運動している状態のことである。