とある方のご依頼で、minitrix社製SL(12035 S2/5)と客車(51 3154)のメンテナンスを行った。 機関車の尾灯(テンダー車)がつかなくなったため、これの修理と、客車の室内灯取り付けの作業依頼だ。普段あまり触れる機会がない海外製Nゲージ車両なので、少し歴史や車両の仕様についても触れてみたいと思う。

ひとまず記念撮影。

左:SL( S2/5 型), 右:客車(51 3154)

うむ。かっこいい。ハリーポッターみたい。

SL S2/5型

正式名称は王立バイエルン邦有鉄道 S2/5 型蒸気機関車。軸配置は先輪4-動輪4-従輪2なので4-4-2配置(通称アトランティック型)。日本式で表現すれば2B1になる。テンダー型のSLとしては中型と言ったところだろうか。ただ、動輪直径が2mというのだから、C62よりデカい。(C62は1.7m)

調べてもあまり情報は多くなかったが、せっかくなのでかき集めた仕様をまとめる。

【S2/5型の基本仕様】
軸配置:4-4-2(コロンビア型)(日本式表記:1B1)
動輪直径:2000 mm
先輪直径 : 950 mm
従輪直径 : 1206 mm
全長 : 19228 mm
高圧シリンダー直径 : 340 mm
低圧シリンダー直径 : 570 mm
ピストンストローク : 640 mm
ボイラ容積 : 3.27 m2
加熱面積 : 14.5 m2
最高速度 : 110 km/h
満載時重量 : 32 t

早速メンテナンスに入る。まずは構造から見てみる。機関車本体とテンダー車の間に銅線は見えていたが、まさか動力ユニットがテンダー車に搭載されているとは思わなかった。日本メーカではあり得ない構造だ。なので動輪が空回りする。20年以上前の製品なので、ただでさえ構造が複雑な機関車側にモータを組み込むのが難しかったのだろうか。また、集電方式にも日本メーカとは大きく異なる部分がある。KATOやTMIX製品では、一つの車輪から左右それぞれ集電する構造が基本だが、この機関車の場合は店先輪と従輪でそれぞれ左右のレールから集電する構造のようだ。それぞれ片方の車輪を殺す使い方なので効率は悪いが、確かに構造は簡単

早速メンテナンスに入る。テンダー車底面の金属パーツを外し、ギヤボックスを開ける。ネジがマイナスなところも、古い製品であることを感じさせる。特にホコリのつまりなどは見当たらないが、外せるものは外してクリーニングする。連結器(アーノルドカプラ)のばねが吹っ飛びやすいので注意。

底面からはこれ以上分解できないようなので、上のカバーも外す。テンダー車は重厚な作りで、中身のほとんどは鋳造で作られたケーシングだった。ウォームギヤで大きなギヤ比を得る構造は日本メーカーと変わらない。

問題の尾灯の光源をみてみる。光源は小さな電球だった。ここのところLEDしか扱っていなかったので、なんとも懐かしい気分になった。電球への給電は、テンダー車のケーシングそのものが一つの電極になり、もう一極は基板から板ばねで給電する構造のようだ。黄色い丸で示す部分を見てみると分かるが、基板から伸びている給電用の板ばねが電球から完全に離れている。走らせていると時々ちらつくことがあると依頼者から聞いていたが、振動で車両が動いた拍子に、電球がたまたま通電状態になったのだろう。電球だけを取り出して通電してみると問題なく点灯した。この通電状態を改善してやれば解決しそうだ。

はじめに板ばねをラジオペンチで成形して電球に接触するようにしてみたが、うまくいかなかった。走行させない状態であれば安定して点灯するのだが、走行状態(モーターに負荷がかかった状態)では不安定になった。原因は板ばねとの接触抵抗が大きいため、 モーターに負荷がかかった状態では電流がほとんどモーターに引っ張られて電球を満足に点灯させる電力を得られていない可能性が高い。

解決策としては二つ考えられる。一つはLED化してしまう方法と、もう一つは電球への給電を接触ではなく銅線ではんだ付けしてしまう方法だ。いずれにしろはんだ付けは必要なので、追加部品が不要な後者を選んだ。0.15mmのエナメル線が手元にあったので基板と電球を接続してしまう。ケーシング自体が導体なので配線には注意が必要だが、エナメル線は被覆があるのでその点安心だ。

安定して点灯するようになった。

汚いGIFになってしまったが、一応載せておく。もう少しきれいなGIFを作る方法を探さねば・・・

客車 MITROPA Speisewagen DRG WR4ü-35

海外の鉄道はさほど詳しくはないが、この客車の表記を見ると全長23mと書いてある。日本の20m級客車と比較しても、より大型の客車のようだ。赤い客車というのも普段見慣れないので、少し新鮮。

室内灯を取り付けてほしいとの依頼だったが、客車足回りを見てみると既に集電台車化されているように見えた。PWMのコントローラで、試しに給電してみると室内がちらちらと点灯した。どうやら製品としては室内灯が点灯するモデルのようだ。

となれば、作業は簡単で、導通状態を確保すればよい。機関車同様に、客車も車輪の左右でそれぞれ給電することはせず、前後の台車で左右のレールから受電する構造だった。車輪が真っ黒に酸化被膜ができていたので、外して踏面を#1000のサンドペーパーで磨いた。ぴかぴかになった。車輪の踏面を磨くときはボール盤や電動ドライバで片方をはさみ、回転させた状態で細く切ったサンドペーパーをあてがうと一瞬で磨くことができる。もっとピカピカにしたい場合はさらに目の細かい#2000や#10000のサンドペーパーを使うと鏡みたいな踏面にすることができる。ちなみにレール表面がさびて来たらこの辺りのサンドペーパーで軽くこすると導通状態が良好になる。100均にも売っているのでおススメ。

台車下の集電ばねと車軸も磨き、再度取り付けると室内灯がきれいに点灯した。走行させても線路の導通状態がよければほとんどちらつかなくなった。

まとめ

今回はminitrix製機関車S2/5型と客車Speisewagen DRG WR4ü-35のメンテナンスを行った。日本製メーカとの構造の違いには少し驚かされたが、良い勉強になった。このような大型の客車を何両も連ねれば大迫力の走行が楽しめそう。普段は旧国鉄時代の日本の車両しか扱わないが、海外の鉄道車両も、日本とはまた違った魅了があることに気づくいい機会だった。

参考サイト

http://kbaystsb.blogspot.com/2007/10/minitrix-12035-s-25.html